とき :2015 年 2月 23日(月)15:00-17:00
ところ:奈良女子大学理学部 G棟3階 G-302
なぜ他者を利するのか? -利他行動の進化的理解-
小林 和也 (京都大学・農学研究科)
ダーウィンの自然選択説では、あらゆる生物の形質は直系子孫の数を最大化するように設計されていると説明されてきました。しかし、ミツバチやアリ、シロアリなどでは自ら子供を産まずに母親の繁殖を助け、兄弟姉妹を育てるワーカーという形質が知られています。この形質の存在は長らく進化論の反証として取り上げられてきました。この謎に対し、1964年にW.D.ハミルトンは、ワーカーは同じ遺伝子を共有する兄弟姉妹を増やすことで次世代に自分の遺伝子をより多く残す形質なのだろうと予測しました。この仮説は血縁選択説とよばれ、単数倍数性であるアリやハチの仲間では多くの実証研究が行われてきましたが、人間と同じ両性二倍体であるにも関わらずシロアリの仲間では研究が進んでいませんでした。今回、近年激しい議論の起った利他行動の進化にまつわる論争を概観し、我々のグループが行ったシロアリの研究例を紹介させていただきます。
関連論文
種内の生物多様性における形成メカニズムと生態学的重要性
遠藤 千晴 (京大院・理)
野外集団内における個体の形態的、生態的多様化は、幅広い分類群において知られる現象である。ジェネラリスト(色々な餌資源を利用する)の集団でも、各個体がスペシャリスト(特定の餌資源を利用する)化し、集団ニッチが細分化されていることが多い。しかしながら、近年までそのような集団内での個体間の変異の度合については重要視されてこなかったため、どのような生態学的状況下で変異の度合が変化するのか、またこのような変異の度合やパターンが変化することで群集・生態系機能に対するどのような波及効果がもたらされるのか未だ理解が乏しい。そこで今回は、まずレビュー論文の紹介を通じて、(1)生態学的な相互作用(種内/種間競争、生態学的機会、捕食)が個体間の変異の度合やパターンを決定づけ、(2)そのような個体間の変異の特徴に応じて、生態学的ダイナミクスが変化する。というフィードバックの両方向からのアプローチにおける理論および実証研究の統合的な解釈を行う。それを踏まえ、演者の研究紹介も交え今後の課題や発展性について議論する。
湖沼堆積層における微生物的な鉄酸化動態の計算
原 千尋 (奈良女大・人間文化研究科)
鉄は環境中の酸化還元反応を支配する重要な酸化還元種であり、鉄の循環動態は地球化学的な側面と生態学的な側面の両方から興味が持たれている。
環境中における鉄の酸化速度は、鉄酸化細菌により促進され、細菌は鉄の酸化反応を促進することによって代謝に必要なエネルギーを得る。鉄酸化細菌による鉄循環への影響は酸性環境下において重要と考えられてきたが、pH中性環境において鉄の酸化をおこなう細菌群 (FeOB) の存在が数多く報告されるようになった。FeOBによるpH中性環境での鉄酸化動態には不明な点が多い。
本研究ではFeOBによる鉄酸化動態への影響を調べるために、 FeOBによる鉄酸化速度を計算するためのパラメタリゼーションを行い、堆積物中における鉄酸化動態における微生物の寄与を考慮したモデルを構築した。パラメタリゼーションにはVollrath et al. (2012)の酸素濃度・pH一定環境下における鉄酸化細菌バッチ培養実験のデータを用いた。微生物的な反応速度は非線形性が強く、通常の線形回帰ではパラメタ値の見積もりが困難であった。そこで、Vollrath et al. (2012)のデータとの残差を計算しながらパラメタ推定を行う方法を考案した。堆積物中の鉛直方向における反応輸送モデルにおいて微生物的な鉄の酸化を考慮した結果、Fe(II)の供給フラックスの変化は鉄酸化細菌の増殖ピーク位置には影響を及ぼさず、増殖可能な深度範囲に影響することが示された。
630−8506
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数理生命システム分野の研究室はG棟3階にあります。
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左手に見える駐車場を越えてすぐ左に曲がって直進しますと、G棟への入り口が右手に見つかります。