新訳本の案内

 Simon Levin 著「Fragile Dominion」の翻訳『持続不可能性』を文一総合出版から出版しました。

持続不可能性:環境保全のための複雑系理論入門
サイモン・レヴィン/著 重定南奈子・高須夫悟/訳
四六判 376ページ ISBN4-8299-0069-5
定価(本体2,800円+税)
2003年10月

Fragile Dominion - complexity and the commons
Simon A. Levin
Helix Books/Perseus Publishing, Cambridge, Massachusetts 1999

 著者のサイモン・レヴィンは、米国プリンストン大学の教授で生態学ならびに進化生物学の分野で多くの重要な業績をあげている、数理生物学の分野において米国のみならず世界をリードする研究者の一人である。

 本書は表題が示すように、我々人類の「住み処」(dominion)である地球という生物圏の行く末を論じたものである。特に幾千万の生物種を擁する地球上の生物多様性がどの様にして創出されたのか、またそれが環境攪乱に対していかに脆弱な (fragile) ものかを複雑系科学の視点を通して浮き彫りにしている。さらに、人類は生物多様性からどれ程多くの恩恵を授かっているかを明らかにするとともに、その恩恵を失わないために我々は何をなすべきかを説いている。

 本書は数理生物学者によって書かれたにもかかわらず、全編を通じて一切数式が出てこない。レヴィン教授自らの言によれば、数理生物学や複雑系の専門家だけでなく、サイエンス一般に興味のある幅広い読者層に読んでもらえることを念頭に、できるだけ分かりやすい説明を心掛けたとのことである。

 この本をひろく皆様に読んでいただければ幸いです。

                   奈良女子大学 高須夫悟・重定南奈子


【目次】

日本語版への序文

第一章 多様性と人間生活
 環境の変化に人はどう対処してきたか/消えゆく生物多様性/生物多様性を解剖する/複雑適応系とは

第二章 我々を取り巻く環境適応と設計  
 突然変異、組換え、性/進化と生物圏/スケールの重要性/恒常性維持とガイア
 知的生命存在原理とガイア/恒常性の創出/種レベルを越えた進化
 利他行動の進化

第三章 六つの基本的な問い
 問1 自然界にはどのようなパターンが存在するのか?/
 問2 パターンは局所的な環境条件だけで決定されるのか、もしくは、過去の歴史が重要な役割を果たしてきたのか?/
 問3 エコシステムはいかにして形成されるのか?/
 問4 進化はいかにして生態集合を形作ってきたのか?/
 問5 エコシステムの構造と機能との関係はどのようなものか?/
 問6 エコシステムの復元性は進化によって高まるのか?

第四章 自然界のパターン  
 可能性と現実/状況証拠/認識のスケール/大規模スケール:ホルドリッジの生物
 分布帯/中規模スケール、群集、そして複合生物/要約/結び

第五章 生態集合
 島の生物学/森林内の島/エコシステムの懇親会/種数と面積の関係/
 相互作用粒子系(確率的セルオートマトン/投票者モデル/接触過程/
 局所多様性と種数面積曲線/エコシステムの集合/エコシステムの組織化
 モデルと実験:ダイナミクスの解明/エコシステム劇場と進化劇

第六章 生物多様性の進化
 島と進化/進化的変化の遺伝的基礎/適応度地形図上の進化の流れ/
 最適化としての進化/競争のダイナミクス/形質置換/多様性の拡大/
 利他主義/局所的相互作用と善と悪の進化/寄生者と宿主、植物と植食者/
 結び

第七章 形態と機能について  
 生物多様性とエコシステムのプロセス/複雑性と復元性/
 機能グループからエネルギー網へ/おわりに

第八章 エコシステムの発生と進化
 エコシステムの発生と進化/自己組織化された臨界性/進化
 下位から上位レベルへ/結び

第九章 我々の未来:複雑性と共有性 
 環境管理のための八つの戒

謝辞
訳者あとがき
参考文献
用語集
用語索引
人名索引


takasu@ics.nara-wu.ac.jp

10/29/03